なにげなく刀鍛冶の作業風景を見ているとほとんどの刀鍛冶が右手で小槌を振っているのに気が付きませんか。それでは皆さん右利きは?まずそんな筈もありません。刀鍛冶においても一般の利き手比率と同じ割合の左利きの人がいます。ではなぜ皆さん右手で振っているのか、それは修行中に右に矯正されているからです。そして私し貞豊も左利きであり刀鍛冶の作業を右に矯正した一人であります。
修行中、刀鍛冶の作業を最初に覚える際どうしても左手で作業したい衝動に駆られながらぐっと我慢し、大槌、小槌を振るのから、炭切りの鉈、ヤスリ掛けなどを右手で行えるように矯正して行きました。やはり最初はただでさえ難しい鍛冶仕事をスムーズに行える訳もなく当時は作業を右手でこなせるようにと必死でやってましたが、今から思えば多くの時間をかけ、稚拙な仕事しか出来ない私に、多大なる迷惑と我慢を先生にしいてしまっていたのかと恐縮する次第です。
ではなぜ左を右に矯正するのか?それも至って簡単な理由であり作業場が左利き用に配置されていないので左手で行うには作業や行いづらかったり、もしくはできなかったりすることがあるからです。
最初に申しましたが刀鍛冶においても一般の利き手比率と同じ割合の左利きの人がいるのですが、ほとんどの刀鍛冶が作業を右に矯正していますので誰が左利きかがほぼ分からず、交流においてのおしゃべりでお互い左利きであることわかることが多くあり、共有できる修行中の苦労話などでぐっと親近感わいたりすることがあります。
ではまったく左で刀鍛冶の作業はしないのかということになりますとそれも各個人差があるのですが、私の場合は、刀身彫刻と銘切りは左利きがスムーズに行える持ち方、左手で豆槌を持ち右手で鏨を持って(右利きの人は逆)作業しております。刀身彫刻においてはどちらでも作業利便上同じような気がしますが、銘切りにおいては手暗にならず左利きが行い易い作業ほうが有利と私は感じております。
そうしたら両方の手で槌が振れたり、ヤスリ掛けができるのかと思われがちですが、私の場合は左手で槌が振れたりヤスリ掛けは出来ないのが残念でです。
左利きであるため幼き頃から右に矯正、矯正(お箸や書き物も右手に矯正)であり何一つ良いこともないような気もしましたが、今となっては自分で気が付かないだけで左利きでもいいことがあったのであろうと感じております。世の中自分の努力だけではなんともならないことが多々ある中、左を右に変えること、自分だけの努力で何とかなるのですから、大きな目で見ると、まぁたいしたことではないですね。
posted by 近江國貞豊 at 20:53|
日記
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